55年の歴史と伝統

 リヤカー部隊でお馴染みの、西新中央商店街。古き良き時代の香りが残るこの商店街の一角に、かまぼこを作り続けて55年、「筑前練り物 こばやし」がある。お客さんが5人も入ればいっぱいになる小さな店だが、根強いファンを持つ店だ。この店では、創業以来の伝統の味に創意工夫を重ね、かまぼこやてんぷらを製造し販売している。
 仕込みは、まだ夜も明けやらぬ4時から始まる。伝統の技で、一つひとつの商品が手作業で作られ、材料のすり身にも添加物はほとんど使用しない。創業以来のこだわりは、今も脈々と受け継がれている。

出来たての温もり

 本来、季節感とは縁のなさそうなかまぼこやてんぷらだが、この店では季節感もたっぷり取り入れている。「農家にお願いして、安心できる季節の野菜を作ってもらっています」と語るのは、三代目ご店主の井口喜信さん。人気商品のごぼう天は、ゴボウの土を洗い流すところから始まり、一本いっぽん手切りする。玉ネギのてんぷらも、揚げる直前にカットするため、甘味にも差がでるようだ。ちなみに「すぼ巻き」は、岡山の農家から取り寄せた本物の藁(わら)を手巻きするというこだわり様。「工房で製造したものを、そのままお客様にお届けできるのが至福の喜びですよ」と井口さん。出来たてホヤホヤの商品が工房からそのまま店頭へと並べられる。

命綱としての「食」

 今の時期は何と言っても「おでんの具材」が充実している。「かまぼこには、タンパク質やカルシウム、ビタミンB1・B2・Cがたっぷり含まれていて、栄養価も高いんです。魚の苦手な子どもたちには、ぜひたくさん食べてほしいんですが」。井口さんは、日本人の食生活の変化で、斜陽化するかまぼこ業界の現状を嘆く。
 現在では、お正月のおせち料理のお飾り感が否めないかまぼこだが、先代の遺言を守り、消費者の信頼に応えようとする頑固な姿勢は、まさに職人だ。
 人間の根幹を支える大切な命綱としての「食」。食の安全性を揺るがす問題も数多い時代だからこそ、こだわりの職人が身近にいることは、救いなのかもしれない。

野菜は「手切り」にこだわる
穴のあいた木の型で成形する
一本ずつ「すぼ巻き」する
揚がり具合は串で刺して確認