「妻よ、そんなにヨン様がいいのか」というコピーまで生まれた2004年。日本中を韓流(はんりゅう)ブームが席巻した。2005年新春の推薦映画特集も、ずばり韓流。韓国映画史を彩る女優たちの作品を通して、韓流とは何か、ささやかな韓流女優物語を試みる。
『黄真伊(ファン・ジニ)』
1986年/監督:ペ・チャンホ
出演:チャン・ミヒ、チョン・ムソン

『黄真伊』は、名高い両班(ヤンバン:李朝時代の貴族階級)に生まれながら男のために身を落としていく、李朝時代に実在した著明な妓生(キーセン)[註1]の華麗で哀切(あいせつ)な女の転落の物語である。
ジニは婚礼の前夜、自分に思いを寄せる靴職人が、かなわぬ恋に自殺したことに深い衝撃を受け、高い身分を捨て一介の妓生になる。知性と美貌に長けた彼女はたちまち評判を呼び、前途有望な官吏(かんり)と契りを結ぶが、短い相愛の後、男はジニのもとを去り、明に国使として派遣されてしまう。失意のジニは流浪の旅に出て、貧乏儒者と同棲(どうせい)を始めるが、落ちぶれて市場の物売りとなり、時には糊口(こぐち)をしのぐために身を売ることもあった。
儒者は芸の立つジニを旅芸人の一座に売り飛ばす算段をする。すべてを察したジニは、自ら病を押して芸人たちの群れに加わるが、力尽きて浜辺で倒れ、そのまま絶命する・・・。
ストーリーだけを追っていけば、これは韓国映画の一ジャンル(男や社会に翻弄(ほんろう)され転落していく女性を主人公としたメロドラマ)の典型のように思われる。悲嘆にくれ、ともすれば過剰な演技と科白(せりふ)によって特徴付けられるこの古典的な時代劇に、ペ・チャンホ監督は大胆な新しい演出を加えた。
例えば、ジニと官吏が初めて出会うシーン。独り山にこもってパンソリ[註2]をうたうジニに、どこからともなく伴奏する官吏の笛の音が聴こえてくる。その後、川辺でおそらく靴職人が作ったであろう靴に酒を注ぎ飲むジニ。もう一度靴に酒を注ぎ、対岸にいる官吏に靴を浮かべ渡す。官吏は川に体を沈めながら靴を手にし飲み干す。ここには、何ら説明的な科白もなく、事前の一切が省略されている。しかし、ペ・チャンホ監督のこの極端な省略法が、ここに至るまでの出自と出会いを一瞬に紡ぎ出し、そしてそこに、微妙でエロティックな余韻を残すという見事なシーンを生み出している。
また、特筆すべきはファン・ジニを演じるチャン・ミヒの美しさだ。まるで能の舞のように抑制された表情、極端にストイックな科白、流れるような静謐(せいひつ)なしぐさ。ロングショットでしかも長回しで捉(とら)えるカメラもまた、流浪するジニの現実を生々しく描き出す。過剰な身振りや科白を極端に抑制することで、深い悲しみを木霊(こだま)させようとする『黄真伊』は韓国映画への新しい果敢な試みなのである。
[註1] 妓生(キーセン)
昔、官に仕えて歌舞を行った女性。特に朝鮮で、医療・裁縫・歌舞・妓楽(ぎがく)を行い宮廷に仕えた女性をいう
[註2] パンソリ
歌い手が太鼓の調子に合わせて歌、言葉、身振りの三つを取り混ぜながら一つの語り(話)を即興的に演じるフリースタイルの音楽。基本的に短調で歌われるパンソリはその発声の一つひとつが芸術であり、深い感情の裏付けと磨き上げた表現技術があって初めて完成する極めて奥行の深い高度な庶民芸能
『八月のクリスマス』
1998年/監督:ホ・ジノ
出演:シム・ウナ、ハン・ソッキュ
この作品は韓国でも大ヒットを記録し、韓国映画の最高の権威にあたる第19回青龍映画賞の最優秀作品賞・主演女優賞・新人監督賞・撮影賞などを独占したのをはじめ、数々の映画賞に輝いた。ヒロイン、タリムを演じるシム・ウナは、韓国のオードリー・ヘップバーンと呼ばれ、この作品は、現在の韓流の原点ともいわれている。
ジョンウォン(ハン・ソッキュ)は、ソウルの街中で小さな写真館を経営している若者だ。店には、近所の小学生たちが「好きな女の子の写真を拡大してほしい」とやってきたり、家族で写真を撮りに来る客や、葬式用の写真を頼みにくる老婦人などが訪れたりする。その度に彼はにこやかな態度で仕事をこなしていた。
そんな夏のある日、駐車違反取締員の若い女性(シム・ウナ)が、違反した車の写真を緊急に現像してほしいとやって来る。タリムと名乗るその女性は、その日から、毎日のように彼の店に姿を見せるようになった。
ジョンウォンも彼女との他愛のないおしゃべりを楽しみながら、しだいに気持ちが弾み、いつしか、彼女とのひとときは、かけがえのない時間になっていく。しかし、彼には、タリムに打ち明けていない秘密があった。実は、彼がこの世で生きていられる時間は、もう限られていたのだ。そのことはタリムに知られたくない。しかし、彼女はそんな彼を誤解し、二人の間は気まずくなってしまう・・・。
彼の家族は、彼の運命を知ってはいるが、表向きは何ごともないかのように明るく振る舞っていた。だが、彼は、死後の準備を少しずつ始めていた。ビデオ好きの父には、ビデオのリモコン操作のメモを残し、店を継ぐ者のためには、現像機械の取り扱い方法を記したノートも書いた。さらに、自分の葬式用の写真も自ら撮影した。そして、タリムには、彼の切ない思いのたけを打ち明けた一通の手紙を・・・。しかし、それはジョンウォンの手で投函されることなく、季節は秋から冬へと移り変わっていく・・・。
■2005年1月5日(水)から16日(日)まで、福岡市総合図書館で収蔵作品特集「韓流女優物語」が開かれる。
『黄真伊(ファン・ジニ)』
1月8日(土)17:00/13日(木)14:00
『八月のクリスマス』
1月9日(日)14:00/16日(日)14:00
このほかの上映作品:『成春香』『嫁入りの日』『雨のめぐり逢い』『馬鹿たちの行進』『寡婦の舞』『灼熱の屋上』『ザ・コンタクト』『マヨネーズ』
※お問い合せは、福岡市総合図書館 TEL.092-852-0600(代表)
|