シーズン・オフだから、ストーブにあたりながら、ひとり野球ってのもいい。というわけで、いきなりの『ベースボール・ムービー特集』
野球のシーンがない野球映画の逸品
『さらば愛しき女よ』 (1975年)
ロバート・ミッチャムがハードボイルド・ヒーロー、フィリップ・マーロウに扮した本作は、1940年代のロスの裏街を舞台に、うらぶれた安っぽいムード感とジャジーな音楽、そして、主演のミッチャムの疲れた雰囲気がレイモンド・チャンドラーの小説を見事に再現している。
主人公マーロウは、名門ヤンキースの偉大な4番打者、ジョー・ディマジオが大好きだ。
「金のためとはいえ、家出した亭主や女房を捜すなんて。それとも俺は本当に老け込んだのか。楽しみはジョー・ディマジオだけだ。ヤンキースのためにガンガン打ちまくっている」
映画の冒頭、もぞもぞとしたダミ声ではじまるマーロウのモノローグである。そして、ある大男の昔の恋人を捜し出すという依頼から、事件に巻き込まれる。核心に肉迫し、傷付き、ぐっとくる友情のエピソードを交えながら物語は進んでいく。
「ディマジオは記録を更新中だ。永久にヒットを打ち続けるように思えた。まだ26歳の若さでスター街道をばく進している。少年の歓声に包まれてる」
しがない中年探偵と若きヒーロー。マーロウにベースボールのない人生はあり得ない。事件が終わった後、少年のようにゲームセンターの「野球ゲーム」に興じるマーロウの後ろ姿には虚しさと孤独感が漂っている。場末のゲームセンターをあとにするマーロウ。ホテルの壁面には、ジーッジーッと音を立てネオン管が見える・・・“CRESCENT HOTEL”。
この作品は、ハードボイルドの傑作であると同時に優れた「野球映画」といえる。
お父さんだって「ごめん」って、
思いっきり泣いていいんだよ
『男ありて』 (1955年)

志村喬扮する島村達郎は、毎年Bクラスのプロ野球チームの監督。家庭では働き者の夫人(夏木静子)と現代っ子の娘(岡田茉莉子)と年の離れた男の子の4人暮らし。島村は家庭でも球場でも、野球のことしか考えない厳格で融通のきかない頑固な男だ。だから、家庭では娘、チームでは若手の選手といつもいざこざが起こる。それを何とか取りまとめるのが、夫人とチームキャプテンの矢野(三船敏郎)だった。
ある時、判定をめぐって島村は審判を殴り、1カ月の出場停止となる。野球しかなかった人生。球場に行くこともできない島村は、初めて家庭での日常を目の当たりにする。「お母さん、今度チームがAクラス入りしてシーズンが終わったら温泉にでも行こう。母さん、どこか行きたいところはないのかね」と疲れ気味の夫人に声を掛ける島村。夫人は「わたし、少女歌劇が観たいんです」と答える。戸惑う夫人を無理矢理連れ出し、夫婦になって初めての観劇、そして食事をする二人。うれしさをかみしめるような夫人と、どこか上の空の島村。その時、出場停止がとけたという連絡が入る。誰もが今夜はだけはやめればいいのにと思うはずだが、「今から夜行に乗れば明日の試合には間に合う」と言い、島村は夫人が用意したユニフォームをかばんにしまい、いつものように出かけていく。野球一途に戻った父親に憤慨する娘とそれをなだめる夫人。「お父さん元気になって良かったわね」という夏木静子の悲しそうな笑顔が忘れられない。
翌日、宿舎に夫人の訃報が届く。涙ひとつ見せずに、淡々と夫人の葬儀をし、Aクラス入りをかけた最終戦へ出ていこうとする父親を娘がなじる。しかし、父はうつむき、いつものように出かけていく。
最終戦、ここを押さえればAクラスという9回裏、ランナーと交錯したキャッチャーがタンカで運びだされる。交代の選手もなく万事休すかというとき、島村がグランドへ向かって走る。キャッチャーマスクをかけ「さあいこう」。監督が捕手に・・・、きょとんとしたチームメートも半信半疑。しかしプレイを続行するほかない。ルーキーのピッチャーが島村のグラブをめがけ投げ込む。捕ってくれ・・・ワンストライク。2球目をキャッチした瞬間、驚くことに島村は一塁へ素早くけん制、なんとアウトでそのままゲームセット。一瞬、言葉をなくしてしまうようなラストイニング。
過日、夫人のお墓参りに来た島村。お線香をあげ「迷惑かけたね、これからはここに来て、お母さんといろんな話をしにくるよ。でも、本当は今日、泣きに来たんだ」。そう言って頑固なお父さんが泣き崩れる。かけがえのない存在を亡くしてしまったことへの、途方もない喪失感。志村喬が本当に泣いている。救いは、その父親の姿を子どもたちが見ていたことだ。「お父さんが泣いている」・・・と。
当時の暮らしを丹念に描写しつつ、日本のプロ野球を舞台に、気丈に生きようとする人々とその弱さの人間ドラマを見事に描いた作品だ。
以下、ティッシュも紙面も尽きたので、最後に『ベースボール・ムービー おすすめの10本』を。
『プリティ・リーグ』
監督:ペニー=マーシャル/主演:トム=ハンクス、ジーナ=デービス/1992年
『ワン・カップ・オブ・コーヒー』
監督:ロビン=B=アームストロング/主演:ウィリアム=ラス、グレン=プラマー/1991年
『エイトメン・アウト』
監督:ジョン=セイルズ/主演:ジョン=キューザック、マイケル=ルーカー/1988年
『打撃王』
監督:サム=ウッド/主演:ゲーリー=クーパー、テレサ=ライト/1942年
『ナチュラル』
監督:バリー=レビンソン/主演:ロバート=レッドフォード、グレン=クローズ/1984年
『エノケンのホームラン王』
監督:渡辺邦男/主演:エノケン、讀賣巨人軍/1948年
『鉄腕投手・稲尾物語』
監督:本田猪四郎/主演:稲尾和久、西鉄ライオンズ/1959 年
『甦る熱球』
監督:サム・ウッド/主演:ジェームス=スチュアート、ジューン=アリスン/1949年
『フィールド・オブ・ドリームス』
監督:フィル=アルデン=ロビンソン/主演:ケビン=コスナー、バート=ランカスター/1989年
『マイナー・ブラザーズ』
監督:ウォルター=ヒル/主演:リチャード=プライヤー、ジョン=キャンディ/1985年
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