一昨年は労働契約法が成立し、昨年は労働基準法が改正されるなど、いい方向に進んでいるが、次の改正を望みたい。一つはNHKの料金集金など個人委託が拡大し、労働者との間のグレーゾーンの範囲が広がっており、使用者責任があいまいにされていること。もう一つは、当事者能力がない者が団体交渉に出てくること。公共民間労組として交渉しても、相手側は「市と相談しないと回答できない」という。ならばと、市と直接交渉できるなら楽だがそれができない。民間でいう親会社・子会社の場合と同じで、労働契約の相手側だけが使用者とされている。この範囲を広げる「使用者概念の拡大」が必要。しかし、なかなかたどり着けない。孫請けが給料を払わないといって親会社に言っても、自社で雇っていないと言われたらどうしようもない。
最低賃金のことで言えば、タクシー運転手は月給が6万円〜8万円の人がいる。月給を労働時間で割ると時給450円とか500円とかになる。月給は歩合制のため水揚げに応じた割合になるので低くなってしまう。生活保護より低くなることもある。このようなひどい話はいくらでもある。
最低賃金法(最賃法)は、最低の基準を定めた労働基準法と同じく強制力があるので、最低賃金に違反すればその差額を請求できる。しかし、労基署に行って相談しても改善勧告するだけ。将来を改めさせることはできるが、過去の分の支払いは裁判をしてくれと言われる。裁判をして勝っても時効は2年だから、2年しかさかのぼれない。労働者の味方になっていない。
労基法を学習して自分の事業所はどうなっているのかを知るべきである。労働基準法で定める就業規則は、会社が一方的に制定できることになっている。それは、労働基準法ができる時、労働基準法でそういう定めをしても労働者は団結するから労働協約で決められる、という考えだったから。そのため、労組法が先にできた。しかし、今の組織率は18%程度しかない。5人に1人もいないので労働協約がない状態が大勢である。労働協約を締結していくことが必要だ。
就業規則の4つの義務
@作成義務…従業員10人以上の事業所に作成義務がある。8人なら作る必要はないとの考えで作らなかったら、労働者は、始業時間や就業時間・労働時間の長さ、賃金の締切日も分からない(しかし労働基準法15条には労働条件明示義務が定められている。これをしなければ、罰則が適用される)。ここでもし、6人で労働組合を結成すれば、労組は団交開催を求める権利があり、会社は団交に応じる義務が生じることになる。そして、会社が団交で組合要求に対して答えたことを文書化して労使が記名・押印すれば、労働協約になる。就業規則がなくても労働協約で労働条件を明らかにすることができる。
A届出義務…就業規則を作成すれば労基署に届け出なければならない。変更するときも出さねばならないが、出していないことが多い。ただし、届け出ていなくてもその就業規則は無効にはならない。
B意見聴取義務…少数組合の場合は、過半数の代表者でないので意見書をつけられない。過半数労働者の代表を選ぶことになる。しかし少数組合でも団交権はあるので団交開催要求はできる。もし使用者が団交を拒否すれば労組法7条2項に該当する不当労働行為となる。
C周知義務…労働契約法第7条、10条に周知義務がある。周知していないと無効になることがある(懲戒解雇など)。厚労省は、パソコンの中に入れておく指導もしているが、使用者は見せたがらない。会社が見せてくれないので、就業規則を見せてほしいと労基署に行っても、会社が提出したものだからと言って見せてくれない。労基署でも見られるようにすべきだと思う。
労働契約と就業規則の関係。幹部採用をする時など就業規則の規定を上回る労働条件で採用される場合がある。就業規則は全体を下支えするものなので、就業規則の定めを上回る労働契約・労働条件は有効だ。しかし、就業規則を下回る労働契約・労働条件は無効とされる。
パート労働者は正規職員の就業規則と別に定められることがある。正規職員だけの就業規則しかない場合、パート労働者には雇入通知書などで労働条件を明記することが必要。パート労働法で雇入通知書の交付が義務化された。契約社員などの有期雇用の場合、1年や6箇月単位で雇用更新されるが、突然に雇い止めをされることがある。こういうトラブルを防止するため、更新の有無や更新の条件の明示を行政指導している。
労働契約法9条で就業規則変更による不利益変更はできないとされるが、第10条で概ね次のような条件があれば不利益変更できることになっている。格別の理由があること、必要性、代償措置や経過措置、労働者・労働組合との誠実協議…などとされている。だから労働組合としてがんばってほしい。
労働協約。組合の団結力により就業規則よりもいい内容で就業規則とは別に、会社と締結するもの。憲法で労働基本権を保障しているが、団交権が一番大事だ(会社側には団交応諾義務がある)。団交は労働協約を締結するために行うもので、労使の意見が対立すれば争議権(ストライキ権)を行使することになる。労働組合が行う正当なストライキであれば、損害賠償(民事)や威力業務妨害(刑事)に問われることはない。そうでないとストライキを行使できないからだ。つまり、民事免責、刑事免責で争議権は保障されている。
労働協約は、覚書とか確認書とか協約書とか表題に関係なく、労使双方が署名するか、記名・押印すればそれでいい。規範的効力(決まりとしての効力)を持ち、組合員全員の労働条件を決めることになる。労働協約は組合員だけとの約束だが、4分の3を超える労働組合の労働協約は、組合に加入していない残りの4分の1の者にも自動的に適用される。これを「一般的拘束力」という。労働協約は簡単には破棄できない。90日前に破棄を通告することが必要だが、その後新しい労働協約ができるまでの間、以前の労働協約が効力を持つという考えがある。これを「余後効」という。
労働協約とは別に労使協定がある。労使協定は、労働基準法などに定められたもので、労働者の過半数を代表するものが協定の当事者となる。この労使協定は、労働基準の例外であり労働者にとって悪くする内容がほとんどだから、注意が必要。労働者が了承すれば労働条件が悪くなっても良いという考えだ。時間外労働についての36協定や変形労働時間制、フレックスタイム制、休憩時間、賃金控除など60の条項があると言われる。
労働組合としては過半数を握って労使交渉をし、たとえば36協定で残業時間を抑制するような取り組みをしなければならない。過半数を組織できていない少数組合しかない場合や労働組合がない場合、会社の親睦会代表が過半数代表として労使協定書に調印することがある。しかし、最高裁は、親睦会の代表者を便宜的に過半数代表にすることは許されない、と判断した。親睦会に対する使用者からの経費補助などによりひも付きの可能性があり、純粋な過半数代表とは言えないという理由だ。そのため、労働者が協議して代表を決めることが必要だ。また、労基法41条に定める管理監督者を過半数代表者とすることは許されない。
地方公務員の場合、消防職員は団結権がなく、非現業職員は団交権が制限され、労働協約締結権がない。できるのは、地公法55条に規定する書面協定だけ。管理運営事項を理由に、交渉を拒否することがよくあるが、勤務条件と表裏の関係にあるので交渉に持ち込むことが必要だ。ちなみに、現業と公営企業の職員には団交権・労働協約締結権がある。
非常勤公務員は1年や半年単位で何回更新しても、雇い止めは「任用」だから有効とされる。民間委託や指定管理は公務ではなく民間の「雇用」になる。しかし、団体交渉をしても使用者側が「自治体から金が出ない」、「自分で決められない」などと発言する場合は当事者能力がなく、形式的に団交しても実質の団交拒否なので、当事者能力のある者との交渉が必要だ。しかし、自治体当局との交渉は難しい実情にある。
連合・労働組合は「正社員クラブ」と揶揄されてきた。しかし、非正規労働者の実情は「明日はわが身」であり、個々人ではなく全体の問題だ。他方の非正規労働者は、正規労働者の賃金が上がれば、ひがみ意識を抱いてきた。そして、パワハラやセクハラを受け、うつ状態になり退職するかどうかで悩んできたというケースも多くある。しかし、どこに相談して良いかも分からず一人で問題を抱えてきた。それが一旦発言しだすと、「みんな同じだったんだ」という思いを共有することになる。
この問題を解決するため、近年、労働審判が活用されている。労使の当事者が同席する中で審問が行われ、審判員から直接事情を聞かれるため、使用者側の横暴が明るみに出ることになる。裁判と比べて簡便に短期間に審判が下されたり和解になったりするが、それでも時間はかかる。労働組合なら、職場で問題が起きれば、それを把握して、もっと早く敏速に対応できる。労働組合の役割は以前とは変わっているが、その重要性は変わらない。
皆さん、がんばってほしい。
*質問に答えて
@労使協定に過半数労働組合が調印すれば、労働協約の側面も持つことになるが、労使双方の署名か記名・押印がなければならない。労基署に提出する36協定の場合、これとは別に時間外労働短縮などについて、労働協約を締結するべきだと思う。
A労働協約の有効期間は上限3年(状況変化があるので)だが、期限を設定しなければ3年を超えても効力は続く。ただ、3年が経たない段階で90日前に破棄通告される危険性があることを踏まえておかねばならない。
B使用者側からの回答を受け、これに組合印を押印して使用者に返しても、信義上の意味はあっても労働協約とはならず、規範的効力はない。