提供:機関紙編集者クラブ

スーパーマンと巻き込まれ災害

 「ミスター・インクレディブル」という映画がある。かつて一世を風靡(ふうび)したスーパーマンが、やがてそのスーパーパワーを使用することを禁じられ、一般市民として生活することを余儀なくされる。かつての栄光の再来を夢見ながら、サラリーマン生活を送るスーパーマンの一人、インクレディブルは、ある日、活躍のチャンスを与えられるという筋書き。
 物置にしまってあったユニフォームを出してみると、ほころびだらけで使えない。スーパーマンのユニフォームを一手に手がけてきた有名デザイナーに相談すると、喜んで新調してくれたがマントが付いていない。
 聞いてみると、マントは巻き込まれ災害のもとらしい。幾人ものスーパーマンが活動中にマントを回転物に巻き込み被災しており、安全対策上もデザインのうえでも不要だという。
 なるほどそういえば、子どものころ白黒テレビで見たクラーク・ケントは、ビルの陰でユニフォームに着替え、マントをひるがえして事件の現場へ急行していたが、飛んでいるあいだヒラヒラしているだけで、行動とはまったく無関係だった。クリプトン星からやってきた赤ちゃんを育てた母が、その正体がばれないように作った派手なユニフォームに、遊び心でマントを付け加えただけだったのかも知れない。
 さて、安全対策上必要な保護具が、かえってアダになるというのはあることだ。法令の条文になっているものに、手袋がある。化学物質を扱うときや溶接作業をするときなど、保護手袋の使用を義務付けているが、ボール盤、面取り盤などの回転する刃物に手が巻き込まれるおそれのあるときは、逆に手袋を使用させてはならないことになっている。
 「はさまれ・巻き込まれ」の災害は、毎年の災害統計でも大変多く、製造業に限ってみれば全災害の3分の1を占めているのだからその対策は徹底されなければならない。ただ「巻き込まれるおそれがある」とはどの程度のことをいうのか、法令違反かどうかは別にして、実際問題では難しいところもある。手袋により保護されるという効果と、巻き込まれの危険を、手袋の形状も含めて評価しなければならない。
 マント省略という判断をしたデザイナーは、ちゃんとスーパーマンの災害データを分析し、リスク評価を行ったのであろう。それは映画の結末で想像できるのである。

連合近畿労働安全衛生センター      
事務局次長 西野方庸(にしのまさのぶ)