提供:機関紙編集者クラブ

あなたには権利があります

 「IT'S THE LAW!」
 黄色の大きな文字が目立ち、その上に「あなたは安全で健康な職場で働く権利があります」と書かれ、権利の説明のあと、一番下には大きな字で電話番号とHPアドレスが書かれている。米国の労働安全衛生庁(OSHA)のポスターである。米国では労働者を雇用する事業所の見やすいところに、このポスターの掲示を義務付けている。
 もちろん日本でも法律上、職場の安全衛生について問題を発見した労働者が労働基準監督署に相談したり、申告したりする権利は保障されているが、実際問題は別である。労働者個人が社長に問題を指摘し、突っぱねられると、それを管轄する役所に訴えるというのはよほどの場合のことだ。
 「出るところへ出てやる」とたんかを切り、労働基準監督署へ行こうとするが、そもそもどこにあるか分からない。だいたい労働基準監督署というのは、他の役所に比べても不便なところにあって、「できれば来ないでね」と言わんばかりに路地裏にあったりする。
 なぜ日本では「あなたには権利があります」と書かれ、労働基準監督署の電話番号が書かれたポスターを張ることが義務付けられていないのだろう。法律の歴史から理解することもできるだろうが、日本の職場の特徴からの説明も可能だ。
 終身雇用、年功序列の日本的雇用によって生活を守り、労働者は所属する会社の未来に自分を同化させ、仕事に対するインセンティブを高める。そのようにして、日本の大企業は発展を重ねてきた。成果主義が盛んに言われる現在であってもおそらくこの日本的なシステムは崩れないだろう。
 基本的に社内の問題は独自に解決し、行政機関はその手助けをするのを旨とし、強制力を持たすにしてもせいぜい勧告止まりと言うところだ。結局、いつでも訴えられますよという宣伝は、この日本的システムにそぐわないのかもしれない。
 だがしかしこの日本的システムは、大手の企業で成り立っているに過ぎないということが重要だ。日本の雇用労働者の6割は50人以下の会社で働いており、そこでは終身雇用も年功序列もあまり関係がない。しかも、労働者派遣条件の緩和など、就業形態の多様化が促進され、アウトソーシングはさらに加速されるかもしれない。日本の職場でも、「あなたはいつでも訴えることができます」というポスターが必要なのではないだろうか。

連合近畿労働安全衛生センター      
事務局次長 西野方庸(にしのまさのぶ)