部下にたばこやジュースなどを買いに行かせる。仕事時間外に誘っても飲みに来ない部下に腹を立てる。相性が合わない部下は無視したり、つい怒鳴ってしまう。
思い当たるところはないだろうか。パワーハラスメントの加害者度がどの程度かというチェックリストに出てくる上司の行動である。
近ごろよく使われるようになったパワーハラスメントという言葉の意味は「職責上の立場を利用して部下を精神的に虐待すること」である。和製英語で、モラルハラスメント(権力を背景にした精神的虐待)の職域版ということになる。別に最近始まったことではなく昔からある話だが、今ほど経済状況が厳しく、成果主義や能力主義という言葉が使われるような社会になってくると、その被害がより顕在化してきたということだ。
この問題の困ったところは、当該の加害者と被害者が、その関係を当然の状況として受け入れていることである。精神的に追い詰められた部下は、自分に非があると思わねばならない状況におかれており、最後は自分の人格を否定的に見ざるを得なくなってしまう。
加害者は、仕事を進めるうえで部下をしかるのは当然のことと考え、相手が個人として自分とは別の社会的な関係の中で生活していることを無視していることに気付かない。最悪の場合、被害者がうつ状態に陥り、休業せざるを得なくなることになる。
「職場や家庭で、部下や同僚に対して、配偶者や子どもに対して、モラルハラスメントの加害者は人の心を攻撃しつづけるのだ。モラルハラスメントの加害者が通ったあとには、死体の山が築かれている。だが、本人は知らん顔して、外から見れば社会に適応した生活を続けているのである」。マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラルハラスメント―人を傷つけずにはいられない』では、うまく加害者の存在する姿が描かれている。
メンタルヘルス対策を進めるうえで、パワーハラスメントはその職場の問題の所在が顕在化されたものととらえる必要がある。職場のコミュニケーションが良好な状況にあるかどうか判断し改善する際の、チェック項目の一つとして考えるべきであろう。
パワーハラスメントという言葉が市民権を得たいま、管理職に対するメンタルヘルス教育のなかで、特別に取り上げる価値のある問題である。