提供:機関紙編集者クラブ

気をつけるには理由が要る

 毎年7月の安全週間で使われるスローガンに、平成12年から3年連続で「危険ゼロ」という言葉が使われた。例えば平成14年は、「めざすゴールは危険ゼロ進めよう職場の安全管理」だった。しかし「危険ゼロ」なんていう状態は本当にあり得るだろうか。
「行ってきま〜す」
「気ィつけるんやで」
 子どもが家を出かけるとき、必ず親は「気をつけろ」という。親が最愛の子どものことを心配するのは当たり前。だから状況の見極めは冷静だ。自分の手の届かないところで、危険がまったく無いところなどこの世の中にはありえないということを知っているのである。
 1:29:300で知られる「ハインリッヒの法則」というのがある。一つの重傷災害の陰には29の軽傷災害があり、そのまた陰には300の無傷害の事故があるという法則だ。これは1930年にハインリッヒが明らかにしたものだが、新しいものでは「バードの事故分析」がある。一つの重大事故に対し10の軽事故、30の物損事故、600の事故には至らない状況が隠れているという。さらに最新のデータ分析では「スカイヤーの法則」。一つの死亡災害に対し、30の休業災害、300の不休業災害、3万の赤チン災害、30万の不安全行動。
 つまり仮に重大事故が起こっていなくとも、軽傷の事故や不安全な状態があるなら、その可能性は必ずあるということだ。
 そして逆にいうと、300の無傷害事故をなくせば一つの重傷災害を防ぐことができ、600の事故には至らぬ危険な状況を改善すると一つの重大事故が無くなり、30万の不安全な行動を無くすことができれば一人の命を救うことができる……ということになる。
 「ヒヤッ」「ハッ」「ドキッ」とするような場面に出あったときは、その職場の危険を認識したとき。その認識を記録にし、リスク(危険の正体と可能性の程度)を調べ、対策につなげる。一見ささやかに見えるけれども、こうしたヒヤリハット報告とそれに基づく対策は、確実に労働災害防止につながっていくのである。
 形がい化した安全衛生活動で見かけるのは、ヒヤリハットの報告があっても、「危ないから気をつけよう」で済んでしまい、職場の改善に至らないという場合だ。「気をつけろ」というなら、どう対策をたててどういう残存リスクがあるかということである。職場の安全衛生には理由が要る。

連合近畿労働安全衛生センター      
事務局次長 西野方庸(にしのまさのぶ)