最近、NHKテレビで「〈歌〉は〈力〉」という短い言葉が叫ばれています。そしてそれはどのような〈力〉かと問いかけています。多くの人々が生きる希望を持てない、ことに若い人たちが苦しい状況の中で問いかけているのを見たり聞いたりします。でもそのバックに流される歌は、これまでと同じ癒し系の叙情的な歌や、叱咤激励(しったげきれい)する昔の軍歌や青春の歌のようなものばかりで、現実を生き抜く魂を力づけるものではありません。解放されていないのに、矛盾を乗り越えて癒されていると錯覚させる、そしていっそう絶望に追い込まれていく恐ろしい状況になっています。
でも、わたしはやはり〈歌〉が好きです。厳しい職場で共に働く若者たちが歌うフォークソング、戦争に反対し平和を求める反戦歌、差別からの解放を求める解放歌、共に生き、愛しあって人間であり抜こうとする愛の歌、日々そのような歌を求め、聞きながら一日一日を生きてきたといえます。そのような歌がなかったら、わたし自身、生きてこれなかったということができます。そしてアメリカに奴隷として売りとばされてきたアフリカの黒人が、虐たげられた苦難の中で生みだしたジャズ。そしてそれを歌い、闘い、生きてきた彼ら。わたしは今、そのジャズに勇気づけられて生き始めているのです。そのジャズが生まれたアメリカの南部のニューオーリンズへ短い旅行をして、今もそこで歌われているジャズを聞き、参加し、とりこになってしまっています。真に生命そのものであるジャズ! そして自分たちを虐げる者たちとジャズを歌いながら闘い、生き抜いてきた黒人たち。その魂の表現そのものであるジャズを自分のものにしたいと思っているのです。
そのジャズが、アメリカ南部のどのような社会で、また歴史のなかで生まれ、歌われ始めたのか。この猿谷さんの『アメリカ内部の旅』が明らかにしてくれます。